生理前症候群はなぜ、ホルモン補充療法で治らないのか?

 

 

はじめに

 

「悶々として死にたくなります。」(20代前半のOL)

 

ここ4~5年、生理前になるとうつっぽい気分がひどくなります。毎回、自分を傷つけて消えたくなります。婦人科を受診し、ピルを半年続けましたが、飲み始めて1週間後くらいから2~3日少し気持ち悪いかなと感じるようになりました。

 

そして1シート飲み終えるころには気持ち悪くなって、吐き気がでて食欲がまったくなくなり食べないこともありました。

 

また、その頃から眠気と頭痛、むくみなどの症状もでてきて、仕事にも支障があらわれたので半年でピルはやめました。

 

この間、生理前の気分はまったく改善されず、ピルをやめたら以前よりも落ち込みはひどくなり、生理前1週間は死にたくなるほど鬱々とするようになってしまいました。

 

「主人が目に入るだけでイライラがひどくて…」(30代前半のパート主婦)

 

私は生理前になるとイライラし、正直、主人が目に入っただけでガマンができなくなります。

 

「テレビを見ている」「帰宅して足音が聞こえた」「話しかけられた」「お茶を飲んでいる」そんなレベルで激しくイライラしてしまいます。

 

そして、主人のちょっとした言動が許せなくなり怒り散らしてしまいます。これはもう、発狂レベルで、いつも少なくとも4~5時間は主人を罵倒し、昔のことをあれやこれやと蒸し返し、「離婚したい」などと怒鳴り散らしていました。

 

ものすごく優しい主人は、この間、ずっと私にひたすら謝り続けています。本当に、私にはもったいない人だと思います。こんなことが繰り返されるようになって2年たち、これがPMS(生理前症候群)とわかり、薬を処方されるようになりました。

 

それで、今までよりは怒りをぶつけることをガマンできるようにはなっていたのですが、でも、スイッチが入れば同じで、同じように4~5時間は汚い言葉を大声で怒鳴り続けていました。

 

そして、薬を服用されるようになって半年後、とうとう穏やかな主人もキレてしまい、私の腕をつかんで「いいかげんにしろ!」と怒鳴ったのです。

 

しかし、私の怒りはおさまらず、泣きながら「痛い痛い」、「あんたなんかと離婚する」、「暴力男」などと口にして、主人はまたひたすら私に謝り続けて事はおさまりました。このとき、夜寝る前にはじまったもめ事ですが、すでに夜は開けて主人の出社時間となっていました。

 

これ以上、主人を苦しめたくありません。どうしたらいいでしょうか?

 

さて、ここまでひどい人は少ないのかもしれませんが、生理前にイライラしたり落ち込んだりしてお困りの女性は、初潮を迎えてから閉経まで幅広く見受けられます。

 

また、そのまま閉経を迎え、今度は更年期障害に悩まされる方も少なくありません。そこで、ここで私の結論を申し上げておきましょう。

 

実は、ホルモンバランスの乱れは、生理前症候群(PMS)の一因にすぎません。他にもいくつかの原因があり、それが複雑に絡み合って「生理前のイライラや落ち込み」という症状としてあらわれます。

 

冒頭のお二人は、それを理解していただき、今では穏やかな生活をとりもどされています。今回は、そんな女性特有のお悩みについて小冊子にまとめました。

 

うろ覚えですが、以前インターネットで「日本国内のPMS患者は1300万程度」と目にしたことがあります。国内の女性は6500万人。そのうち、月経があると予測される女性は2650万人程度ですから、おおよそ2人に1人はPMSを経験していることになります。

 

つまり、今は問題がなくても、いつこういった問題に悩まされても不思議ではありません。

 

この小冊子をお読みになれば、PMSへの対処とともに、それを未然に防ぐ手立てもご理解いただけます。

 

また、今は問題がないと思われている方でも、考え方を生活に取り入れていただくことで、さらに元気な毎日が送れるようになると私は考えています。

 

お読みいただき、お役立ていただければ幸いです。

 

 

第一章 木を見て森を見ず!

 

絶対に作るのは無理。

 

そう言われていた無農薬栽培のリンゴを、8年かけて作った木村さんの著書「奇跡のリンゴ」ですが、映画化されましたのでご存知の方も少なくないと思います。

 

リンゴ農家だった木村さんは、以前、他のリンゴ農家と同じように農薬をつかってリンゴ栽培をしていました。が、奥さまが病に倒れ、その原因のひとつに農薬があると知って無農薬栽培を決意されたそうです。

 

しかし、その夢は困難を極めました。そして8年間、収入はほとんどなく家族は極貧生活が続きました。そんな先も見えない絶望感の中、木村さんはついに無農薬栽培のヒントを得たそうです。

 

本書の中に、木村さんのこんな言葉がありました。

 

「目に見える部分にばかり気を取られて、目に見えないものを見る努力を忘れていた」

 

目の前の現象だけを見て、全体を見通さないことのたとえを「木を見て森を見ず」と言いますが、木村さんの言葉はまさしくこのことを示唆しています。

 

私は、生理前症候群(PMS)も同じだと考えています。

 

 

◆ 木を見て森を見ない。から、生理前症候群が治らない。

 

木を見て森を見ない。この格言は、よく次のような、よりかみ砕いた説明がなされています。

 

私たちは、目の前でおきている現象や物事の結果にのみ、目を奪われがちです。

花にばかりに目が向き、あまり枝や葉を見ることはありません。

仮に枝葉を見ても、幹を見ることはまずありません。

まして、根のことなど考えようともしません。

 

花という結果のみ気にして、根幹に思いが及ばないことがほとんどではないでしょうか。私は、生理前症候群も同じだと考えています。

 

なぜなら、生理前症候群をこの話になぞらえたとき、ほとんどの人はその「花」や「枝葉」すらカン違いされていたからです。

 

たとえば西洋医学のホルモン補充療法ですが、これは次のように考えることができます。

 

 - 生理前にイライラしたり落ち込んだりする

 - 原因はホルモンバランスだ

 

極端に聞こえるかもしれませんが、西洋医学は枝葉だけでなく「根幹」も無視しています。生理前症候群の症状がおきるとき、ホルモンバランスが乱れる。

 

この二元論のみにスポットライトをあてているからこそ、西洋医学では「じゃあ、ホルモン補充療法!」という発想になります。

 

正直、これはわかりやすいです。

 

聞いた素人の私たちも、専門家が口にする話ですから信じてしまいます。また、困ったことに、私たちは知らないことを聞くと思考を省略してしまいますから、こういった話を鵜呑みにしてしまう。

 

私のお客様の中には、生理前症候群の治療中に精神症状が悪化し、心療内科への通院を余儀なくされた方が少なくありません。また、こういった方々の中に中高校生の女の子もいらっしゃいます。

 

 

◆ 視覚から得る教訓!

 

本当に私たち消費者がもとめたのかどうかは知りませんが、スーパーなどに並べられた野菜って、形が整ったものばかり。そしてこのことからも、私たちがいかに見た目を重視しているのかがわかります。すでにご紹介したことがありますが、人間が得ている情報の87%が視覚からだとされています。

 

しかし、その視覚からの情報も下図と次ページの図を見れば、それがいかにあてにならないものなのかわかります。

 

どちらも有名な錯視の図ですが、前ページの長い横線はどちらが長く見えるでしょう。

 

また、下図の正方形はどちらが大きく見えるでしょう。おそらく、ほとんどの方は上の横線が長く見え、右の正方形が大きく見えたと思います。が、ミュラー・リア―錯視と正方形・ダイヤモンド形錯視と、それぞれ錯視というタイトルがつくように、長さも大きさもその違いは錯覚。

 

どちらの図もまったく同じ大きさ。

私たちの視覚とは、それほどあてにならないものなのです。

 

考えてみれば、多少見栄えの悪い不揃いな野菜でも、見た目が整ったものと栄養価や味に大差はないはずです。

 

しかし、今現在、そういった見栄えの悪い野菜は売り物になりません。ならば、そういったものが店頭に置かれるようになれば、生産者はもちろん、おそらく購買価格が安くなりますから、私たち消費者にもメリットがあります。

 

そんな視覚に著しく頼っている私たちですから、本質は目には見えていないという事実を強く自覚しなければなりません。

 

 

◆ 顔色をうかがう

 

「顔色をうかがう」といいますが、私たちには他人の顔を見ることでその〝内面〟を類推する能力があります。

 

たとえば、彼女とのデートで食事をしていたとき「もう一軒行かない?」と聞いたとき、私たちは全神経を集中し、彼女の真意を読もうとします。こんなとき、彼女の返事はもちろんですが、表情や態度のちょっとしたところまで見逃しません。

 

「嫌よ嫌よも好きのうち」という言葉もあるように、口先では嫌がっていても実は好意が無いわけではないというケースは確かにあります。

 

ですから、「え~、もう遅いから…」とか「朝はやいから…」という彼女の言葉の真意を、顔の動きなどから判断します。その結果、「やった~。良かった。」とほっとしたり、「言わなければよかった…」と後悔したりする。

 

哲学者ダニエル・デネットは、こういった機能(能力)、相手が外見とは違う心の状態をもっているとき、それを読みとることができるかどうかを「心の理論」と名づけました。

 

私が指摘するまでもなく、五感から入力された情報は脳内で処理され、なんらかの形で表情や態度、言葉となってあらわれます。この「心の理論」から考えれば、「見た目がすべてではない」と理解していることも容易に想像できます。

 

 

◆ では、生理前症候群(PMS)における花とはなに?

 

「お~、あの怖い顔は生理前に違いない!」

 

生理とは無関係の男性でも、奥さまが生理前症候群だと「そろそろ生理前か~」と、おおよそわかるようになります。それほどわかりやすく、表情や言葉遣い、態度が変わってしまうのが生理前症候群の特徴。の、ひとつです。

 

そう、イライラしたり、落ち込んだりするのは生理前症候群の特徴のひとつで、これは専門家たちも承知している事実です。その証拠に、生理前症候群で訴えの多い症状は上位から、イライラ、腹痛・下腹部痛、頭痛・頭が重い、眠気、胸の痛み・張りとなっています。

 

それ以外の心の症状として、気力がなくなる、落ち込みやすくなる、涙もろくなる、不安になる、孤独感を覚える、緊張する、くよくよするなどがありますし、身体的症状では、顔や体のむくみ、肌荒れやニキビ、首や肩のこり、胃腸症状・吐き気、腰痛、下痢や便秘、だるさ・疲れがとれないなど、人によりさまざまな症状を訴えます。

 

すでにご紹介したことがありますが、日露戦争時、陸軍は戦死者よりもはるかにおおい、脚気による死者を出す一方で、海軍は脚気により死者をただのひとりもだしませんでした。

 

これは海軍軍医、高木兼寛が脚気の原因を食事内容(ビタミンB1不足)にあると、脚気患者を観察して見抜いたからです。そんな高木は「病気を診ずして病人を診よ」という言葉を残しました。

 

生理前症候群も同じです。病気だけを診れば、こういった症状の花は生理前のイライラや落ち込みであり、根にあたる原因はホルモンバランスの乱れでしょう。

 

しかし、病人を診たなら、少なくとも次のように考えることができます。生理前症候群で悩み女性のひとりひとりが木々であり、彼女たちが訴える心の症状や身体症状が木々に咲く「花」である。

 

それでは引き続き、病気を診るのではなく、病人を診ていきましょう。

 

 

第二章 生理がおきる仕組みは?

 

女性の生理を「月経」と呼びますが、これは月経の周期が月の満ち欠け周期(29.5日)に近いことから名づけられた医学用語だそうです。

 

実際、月経周期は月の満ち欠け周期の”なごり”があると考えられています。たとえば、カニやサンゴなど、多くの生物(特に海洋生物)が月の満ち欠けに従って繁殖行動・産卵を行います。

 

また、太陽の周りを地球が一周する時間はおおよそ24時間ですが、月が地球を一周する時間は24時間50分。そして、これは人間の体の基本周期もまた、この24時間50分とされています。(インターネットなどで検索してみてください)

 

さらに、妊娠から出産までを十月十日と言いますが、平均妊娠期間は266日(280日から生理から排卵までの14日を引く)ですが、これは月の満ち欠けの周期(朔望月・さくぼう月)のぴったり9倍ですから、月と女性の体はどこかでつながっているのかもしれませんね。

 

◆ 生理周期の流れ

 

女性の体は、おおよそ1ヶ月に1回、卵巣から卵子を排出します。これを排卵と呼びますが、それに合わせて子宮内膜を厚くし、受精卵の受け入れ態勢を整えます。

 

このとき、卵子が受精しなかった場合、準備していた子宮内膜ははがれ落ち、体外に排泄されることになります。これが生理です。

 

排卵と生理。このサイクルを月経周期と呼びますが、これを支えているのが2種類の女性ホルモンです。

 

生理が終わるころから排卵までは卵胞ホルモン(エストロゲン)の分泌が多い時期で、これは「卵胞期」と呼ばれ、子宮内膜が厚くなるのはこの時期です。

 

また、排卵後から生理までは黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌が多くなり、その作用で子宮内膜はより厚く、妊娠に適した状態になります。この時期は「黄体期」と呼ばれます。

 

この繰り返しが生理周期ですが、生理前症候群の理解のために、もう少し踏み込んだ細かな流れを確認していきましょう。

 

◆ 脳からの指令!

 

今年の夏、カリフォルニアのマウンテンビューの公道で、自動運転カーの実験走行を始めるそうですが、私たちの体も自動運転。

 

私たちが意識することなく心臓や胃腸が働いてくれるように、女性の生理周期も脳とホルモンによりコントロールされています。私たちにおなじみの右脳左脳の下、大脳辺縁系(情動脳)に「生命の中枢」とも称される視床下部があります。

 

この視床下部の下にぶらさがるのが脳下垂体で、ここから出ている様々なホルモンにより、私たちの体調や体の機能が正常に保たれることになります。

生命の中枢である視床下部は、血液中に含まれるホルモンの量を常にチェックしています。生理周期においても、必要に応じて性腺刺激ホルモンを分泌することで、そのサイクルをコントロールしています。

 

生理が終わるころ、視床下部からの指令を受け、脳下垂体から性腺刺激ホルモンの卵胞刺激ホルモン(FSH)が分泌されます。このFSHが卵巣に届くと、卵巣の中にある原始卵胞を刺激し、そのうちのひとつが成長をはじめます。

 

卵胞が発育すると、そこから卵胞ホルモン(エストラジオール)が分泌され、これが子宮内膜に働きかけることで少しずつ内膜が厚くなります。

 

卵胞ホルモンの分泌量がピークに達すると、それを視床下部が感知し、あらたな指令を脳下垂体に送ります。その指令により、脳下垂体は黄体化ホルモン(LH)を分泌し、それが卵巣に届くと、成熟した卵胞が刺激を受け、なかの卵子が飛び出します。これが排卵です。

 

排卵後、卵子が出ていった卵胞は黄体というものに変化します。そしてこの黄体から黄体ホルモン(プロゲステロン)が大量に分泌されることになります。(ここでも、卵胞ホルモンは少量ですが分泌されています)

 

この黄体ホルモンの働きかけにより、子宮内膜はさらに厚くなり、いつでも着床ができるように準備が進みます。が、妊娠が成立しないと、黄体ホルモンと卵胞ホルモンはともにその分泌量が激減し、子宮内膜がはがれて排泄されることになります。

 

これが生理で、このときの出血を経血と呼びます。

 

◆ 男性ホルモンと女性ホルモン

 

窮鼠猫を噛む。という格言がありますが、ネコに睨まれているネズミも、その不安(緊張)も限界になるとネコに襲いかかるようです。

 

ネコを目の前にして震えあがって(不安を抱えて)いるネズミは、同時にまた興奮(イライラ)という感情を抱えている。この格言が事実かどうかは別にして、不安とイライラは表裏一体であることだけは脳内物質からもあきらかです。

 

なぜなら、動物が危険を察知したとき、体は瞬時に警戒態勢をとります。このとき、体は緊張しますが、これは、いつでも逃げれることができるように、と同時にいつでも戦えるようにという備えです。

 

脳内もそれは同じで、このときノルアドレナリンが情報伝達のために活躍します。そしてこのノルアドレナリンは、不安と恐怖と同時に、興奮と攻撃の感情物質。脳内でも危険を避けること、危険に立ち向かうことのどちらにも対処できるように備えています。

 

面白いことに、このノルアドレナリンはドーパミンから合成されます。ドーパミンは快感や認識、創造性などの感情物質で、音楽や読書、趣味など、本人が大好きな行動時に大量に分泌されます。

 

ピンチの時、こんな悠長なことでは困りますから、そういった感情を消し去ることと同時に、戦闘態勢の感情にかえてしまう。ドーパミンからノルアドレナリンが合成されるとは、こんな意味合いがあるのでしょう。そして、これは女性ホルモンも同じです。

 

実は、女性ホルモンの原料はコレステロールです。では、女性ホルモンができる流れを確認してみましょう。

 

 

このようにプロゲステロン(黄体ホルモン)はテストステロン(男性ホルモン)やエストロゲンの原料でもあるのです。

 

そして、重要な事実がもうひとつあります。それは、コレステロールはコルチゾールの原料でもあること。私は、このことが生理前症候群と大きく関わっていると確信しています。(下図)

 

 

第三章 ストレスの脳科学

 

私たちは、目の前でおきている現象や物事の結果にのみ、目を奪われがちです。

花にばかりに目が向き、あまり枝や葉を見ることはありません。

仮に枝葉を見ても、幹を見ることはまずありません。

まして、根のことなど考えようともしません。

 

花という結果のみ気にして、根幹に思いが及ばないことがほとんどではないでしょうか。

 

生理前症候群において、ほとんどの人は「ホルモンの乱れが原因」という「花」を診ています。そしてまた、西洋医学はその「花」に対しピンポイントの対処を考えますから、ホルモン補充療法という選択肢が提供されます。

 

これがまた、一般の方がPMSをホルモンの問題と強く認識させることになるのでしょう。しかし、高木は「病気を診ずして病人を診よ」といっています。

 

そしてPMSという病気を診ると「生理前(ホルモン)」という問題のほかに、そこには人により多少の違いはあるものの、「精神症状」と「身体症状」という問題があることがわかります。

 

私は、この「精神症状」と「身体症状」もまた「花」であると考えています。そしてこの考えをもとに、PMSについてもう少し深く掘り下げてみたいと思います。

 

◆ 生命の中枢「視床下部」

 

日本の座禅や中国の太極拳、インドのヨガなど、世界中にはさまざまな伝統的な健康法があります。そしてこれらは、いずれもが呼吸をコントロール(深い呼吸)するという共通点があります。

 

そしてこれは、呼吸だけが意識的にコントロールすることが可能だからです。

 

命を維持するためのさまざまな営みは、脳や脊髄からの指令によって行われます。消化器官の消化吸収活動や、心臓の拍動、まばたきなどなど、これらはみな、無意識のうちに行われています。その中に呼吸もあるのですが、これらを自動的に動かしているのが自律神経です。

 

人は自律神経の働きのおかげで、意識することなく体の状態が調節されています。さまざまな呼吸法は、呼吸をコントロールすることにより、この自律神経に唯一アプローチできることが可能といわれています。そしてこの自律神経を支配しているのが視床下部です。

 

たとえば、私たちは暑くなると汗をかき、寒くなると体が震えて縮こまります。汗をかくことで体温を下げ、震えて縮こまることで筋肉で熱をつくり体温の低下を防ぎます。

 

この指令をだしているのが視床下部で、生命を維持する働きを担うため、生命の中枢とも呼ばれています。

 

◆  視床下部と理性

 

国内線の航空機は地方空港から飛び立ち、成田空港や関西空港を経由し、国際線の航空機で海外の国々へ飛び立ちます。このときの成田空港や関西空港をハブ空港と呼びます。

 

同じようなハブ機能を視床下部ももっています。すでに説明したように、食欲や性欲など本能の中枢や体温調節の中枢など、生命活動の中枢が集まっているのが視床下部です。

 

たとえば、血糖値が下がる(空腹になる)と何かを食べたくなります。逆に、血糖値が上がると満腹を感じ、食欲はおさまります。のどが渇くと水を飲みたくなりますし、体内の水分が足りなくなると小便が減りますが、これらはすべて視床下部の指令によります。

 

また、子孫を残そうという性欲は本能ですが、ところかまわず性衝動にかられて行動する人はいません。これは大脳新皮質(右脳左脳)が視床下部を制御しているから。

 

間脳(視床下部がある脳の部位)の上に覆いかぶさる大脳新皮質は、視床下部を暴走しないようなお目付け役なのです。さらに、怒りや恐怖を感じるのは大脳新皮質ですが、その感情を攻撃や逃走という行動に導くのは視床下部の働きです。

 

このことから、視床下部を通じ、感情や本能と自律神経、ホルモンの働きが互いに関わってくることが想像できると思います。精神的ストレスなどで、ホルモンや自律神経に影響がでるのはこのためなのです。

 

そこで、ここをより深く理解していきましょう。

 

◆ ヘビ(ストレス)を見た(受けた)ときの情報の流れからわかること!

 

「ヘビを見たときドキッとするでしょ?」

「うん!」

 

どんな人にでも通用していたこのやりとりですが、このところ動物園でしかヘビを見たことがない子供が増えていまして、今後、どんな形でたとえ話をしたらいいのか?

 

思い悩んでいる私ですが、ここでは相も変わらずヘビのお話でご紹介します。

 

1.ヘビを見たとき、見たとわかっていないのに瞬時に体がドキッと反応する

 

ヘビの(ようなもの)という情報が視覚から扁桃体に届けられ、それを情動脳が不快と評価。その情報が視床下部に届き、瞬時に自律神経を刺激することでいつでも逃げれるように、いつでも戦えるように戦闘態勢がとられる。

 

2.それらの情報が右脳左脳に届き、ヘビだと確認されると意味づけがなされ、怖いという感情になる。また、この情報が扁桃体にフィードバックされ、戦闘態勢は強化される。

 

逆に、それがヒモだと確認されると、不快という情報が「安心」という感情に書き換えられ、その情報が扁桃体により「快」と評価されて、視床下部の戦闘態勢は解除されることになる。

 

つまり、ストレスを受けると、その情報は大脳から視床下部、扁桃体から視床下部、扁桃体から大脳へと、さまざまな流れでフィードバックされ続けることになります。

 

そしてもし、慢性的なストレスが続いたなら、扁桃体から発せられる不快という評価が視床下部に届けられ続くことになり、自律神経の緊張が続くことになります。

 

◆ 性ホルモンと副腎皮質ホルモン

 

ストレスを受けると、その扁桃体がそれを「不快」と評価し、その情報により視床下部が自律神経に指令を与えます。また、それらの情報が大脳新皮質に届けられ、そこでまた理性的・知性的な思考からの情報が視床下部に届けられることになります。

 

着陸する飛行機と飛び立つ飛行機が絶え間なく行きかうハブ空港のように、大脳と情動(扁桃体)からの情報により視床下部は働き続けることになります。

 

当然のこととして、ストレス時、視床下部は自律神経に戦闘態勢を命じます。このとき、感情は興奮することになりますし、ホルモンの働きは悪くなります。

 

これは、次のような流れによります。(以下はP20図の一部を省略した図)

 

 

持続したストレスにさらされたとき、脳はストレスに対抗するためのホルモンを副腎に要求します。

 

これが、アトピーのときの塗り薬で有名なステロイドホルモンです。副腎でつくられるステロイドホルモンはコルチゾール。

 

そして図でお解りのように、副腎皮質で造られるコルチゾールも、卵巣で造られるプロゲステロン(黄体ホルモン)も、さらにエストロゲン(卵胞ホルモン)も、その原料はコレステロールです。

 

参考までに、図にあるテストステロンは男性ホルモンですから、女性も男性ホルモンをもっていますし、男性も精巣で女性ホルモンが造られています。

 

では、ストレス時の話に戻りますが、ストレス時、脳はコルチゾールを造るよう副腎に要求します。このコルチゾールはストレス対応ホルモンで、炎症や痛みを抑えたり、血糖値を上げる働きなどをします。

 

ストレスに対抗するとは、言い換えれば戦闘に備えることですから、いつでも戦えるよう、エネルギー源である血糖を準備しているわけです。

 

では、こういったストレス状態が続くとどうなるのか?自然なことですが、コルチゾールが造られ続けることになります。

 

◆ マラソンの女性選手からわかること

 

丸みを帯びた女性らしい体系。この原動力はエストラジオール(卵胞ホルモン)のおかげですが、女性のマラソン選手をイメージするとそれがよく理解できます。

 

おそらくですが、マラソン選手は毎日のように10~20キロ走り続けています。これは私が指摘するまでもなく、体にとってストレス状態。

 

そのため、マラソン選手は大量のコルチゾールが造られ続けていることが想像できます。このとき、原料であるコレステロールは使われ続けてしまいます。

 

水が入ったバケツに大きな穴と小さな穴を開けたとき、水は大きな穴からよりたくさん流れ落ちます。これは、女性のマラソン選手も同じです。

 

コルチゾールの合成のため、副腎にコレステロールを奪いとられることにより、卵巣には十分なコレステロールが届きません。

 

ならば、原料であるコレステロールが不足すれば、女性ホルモンが十分に確保できないことは自然なことではないでしょうか。事実、マラソンの女性選手は生理がとまるケースが多いそうです。

 

また、これはマラソンに限らず、ハードなスポーツはもちろん、仕事や介護のストレスで生理不順や生理前症候群がおこるのもこういったことが理由です。

 

上記したように、継続したストレス時には生理がとまります。これはマラソンだけに限らず、仕事や介護などのストレスでも同じです。

 

◆ なぜ、生理前にイライラしたり、落ち込んだりするのか?

 

もう、おおよその見当はついたかもしれません。が、念のために生理前のイライラや落ち込みについて考えてみましょう。

 

ホルモンの流れを確認するとわかりますが、プロゲステロンはコルチゾールの原料です。

 

生理前、女性の体は次の排卵に向けて準備をすることになります。それが月経であり、この生理時は、卵巣がコレステロールを優先的に使おうとします。

 

そのため、副腎で利用できるコレステロールが減り、コルチゾールの量が十分に確保できなくなります。

 

すでに説明したように、コルチゾールはストレス対応ホルモンですから、それが不足すればストレスに対抗できなくなります。

 

その一方で、ストレスにより交感神経の緊張は続いています。このとき、脳内では感情物質ノルアドレナリンが大量に分泌されています。

 

このノルアドレナリンはイライラや落ち込み、闘争や恐怖の感情物質ですから、ストレスの防波堤となるコルチゾールがなくなることで、その感情が一気に言動となって表出することになります。

 

◆ 二層にわかれることのない基礎体温

 

生理周期において、基礎体温は重要な指標のひとつです。生理がはじまると、女性の体はすぐに低温期となり、排卵により卵胞ホルモンの分泌が活発になると、そのおかげで体温は上がり生理まで高温期が続くことになります。

 

健康な女性はこの基礎体温が二層構造になるのですが、残念ながら高温期にならない、体温が上がらない女性もいらっしゃいます。そして、その理由は大きく黄体ホルモンの不足です。

すでに説明しましたが、排卵後、体温が上がるのは、黄体ホルモンのおかげです。卵胞から卵子が飛び出した(排卵)後、卵胞は黄体に変化し黄体ホルモンの分泌量が増えます。

 

そのおかげで体温が上がるわけですから、上がらなければ黄体ホルモン不足が原因と考えるのは自然なことでしょう。

 

しかし、P31の図を合わせてみると、それは結果であり、原因は他にあることが想像できます。血液中のエストラジオールの濃度がピークに達したと判断すると、視床下部は新たな指令を脳下垂体に送ります。

 

では、エストラジオールの濃度が上がらなかったならどうなるでしょうか。

 

たとえば、ストレス時、コルチゾールの合成が促進されることで、プロゲステロンの量や質が十分でなくなる可能性がある。

 

もしそうならば、エストラジオールの原料はプロゲステロンですから、エストラジオールの血中濃度も十分に合成できないことは容易に想像できます。そしてまた、それは視床下部が脳下垂体に「排卵」の指令を出さないことを意味します。

 

では、この流れを整理してみましょう。

 

生理が終わるころ、視床下部からの指令を受け、脳下垂体から卵胞刺激ホルモン(FSH)が分泌されます。このFSHが卵巣に届くと、卵巣の中にある原始卵胞を刺激し、そのうちのひとつが成長をはじめます。

 

卵胞が発育すると、そこから卵胞ホルモン(エストラジオール)が分泌され、これが子宮内膜に働きかけることで少しずつ内膜が厚くなります。

 

もし、このとき卵胞ホルモンの量が十分でなければ、視床下部は卵胞が十分に成長していないと判断し、脳下垂体に指令を続けるはずです。「卵胞刺激ホルモンの分泌をしろ!」と。そして、これが問題を大きくすることになります。

 

基礎体温が二層になることが理想ですが、現実には高温期がないケースでも排卵がおきることが少なくありません。そしてこのときの卵胞は未成熟であり、そこから飛び出た卵子も未成熟です。

 

また、卵胞は黄体化しますが、それもまた未成熟であることに疑いはありません。さらに、黄体はプロゲステロンを分泌しますが、卵胞ホルモンの量は十分に上がることはありませんから、視床下部からのFSH分泌の指令は脳下垂体に続くことになります。

 

だからこそ、生理周期が長引くことになるわけです。

 

 

【まとめ】

 

・ストレスによりコルチゾールの合成が進み、女性ホルモンの原料(コレステロール)が不足

・視床下部と脳下垂体はエストラジオールの合成を促すが、原料が足りないために十分につくれず、いつまでもその働きを促し続ける

・無排卵のケースもあるが、未成熟な卵胞から未成熟な卵子が飛び出し、さらに未成熟な黄体ができるが、やはりコレステロール不足で十分な黄体ホルモン(プロゲステロン)がつくれない。そのため、生理が長引く。

・生理がくる前、プロゲステロンの合成が優先されるため、コルチゾールが不足。ストレスに対抗できなくなり、生理前症候群がおきる

 

 

第四章 生理前症候群への対処!

 

いつもイライラしている上で、生理前になるとそのイライラが抑えられなくなる女性がいる一方で、生理前以外は問題がないとう女性もいらっしゃいます。また、生理前も含め、ほとんど問題のない女性もいらっしゃる。この差は、いったいどこにあるのでしょうか?

 

この差がわかれば、生理前症候群への対処が理解できますので、最期にそのお話を続けたいと思います。

 

・視床下部が疲弊している!昼夜も問わず働けば、誰もが疲弊して寝込むことになりますが、それは視床下部も同じでしょう。

・ストレスにより、視床下部は交感神経(アクセルの自律神経)を緊張させます

・女性のホルモンバランスをチェックし、脳下垂体にホルモン分泌の指令を与えるのも視床下部の仕事です

 

そしてこれらふたつの仕事は、お互いに干渉し合います。ストレスがひどければ女性ホルモンの働きは乱れますし、女性ホルモンが働こうとすればストレスに対抗できなくなる。

 

だからこそ、生理が乱れますし、生理前にイライラしたり落ち込んだりします。こういったとき、視床下部がうまく働けていないこと。司令塔としての指揮系統が混乱していることはすでにご理解いただけたと思います。

 

ならば、生理前以外の時、ふだんからイライラしたり落ち込んだりしていたとしたなら、視床下部はなおさら混乱していること、仕事が多すぎて手一杯になっていることも想像できるのではないでしょうか。

 

では、なぜ、それほどまでに視床下部の仕事が増えてしまうのでしょうか?

 

私は、その原因は「本能」が満たされていないからだとほぼ、確信しています。

 

 

 

「8時間は寝かせています!」

 

そう自信満々に答えるお母さんに対し、私はイラッとすることが少なくありません。なぜなら、この睡眠時間が幼稚園や小学校の低学年の子供だったりするからです。

 

私など、小学6年のときでも11時間は寝ていました。また、今でも疲れていたりすると9時間くらい寝てしまうことが多々あります。さらに、海外の高校生の睡眠時間は9時間くらい。

 

ですが、日本ではなぜか?〝8時間〟が一人歩きしていますし、睡眠時間が少ないことを自慢?するというヘンな風潮があるようです。私が指摘するまでもなく、睡眠は三大欲求のひとつであり、視床下部がコントロールする本能のひとつ。これが満たされなければ、視床下部は司令塔として過剰に働かなければなりません。

 

十分な睡眠により体がリセットされるわけですが、睡眠不足ではそれができません。すると、その影響は全身に及ぶことになります。そして、その典型例が過労死です。視床下部には、そんな体の不調という声(情報)がいつも届けられています。

 

睡眠不足だから副交感神経を働かせる指令を出し続ける一方で、現実には活動をしていますから交感神経にも働くように指令をだしています。

 

ブレーキを踏みながら、アクセルを踏む。そんな真逆の指令を出し続けるわけですから、疲弊するのも当然でしょう。まずは、十分な睡眠を心がけてください。

 

 

 

私たちの体は、さまざまな栄養素を使うことでその活動が維持されています。そして、睡眠不足や精神的なストレス、ホルモンのアンバランスなどは、その栄養を大量に消費することになります。

 

たとえば、ストレス時、ビタミンCの必要量は通常の7倍以上になるとされています。が、そういったことを私たちは自覚しません。ですが、視床下部にはその情報が届いています。

 

そもそも、食欲とは「必要な栄養をすべて、十分にとれ!」という本能。それが満たされなければ、視床下部はこんな指令を出すはずです。

 

「狩りをしろ!」

 

このとき、アクセルの神経(交感神経)が緊張することになりますが、このときノルアドレナリンが大量に分泌されることになります。腹を空かせた猛獣は気が立っているように、私たちも栄養が満たされなければイライラします。

 

これはノルアドレナリンの分泌による感情で、このノルアドレナリンは恐怖や悲しみを感じる物質でもあるのです。ならば、栄養が不足しているとき、イライラや不安、落ち込みなどに悩まされることに何の不思議があるでしょうか。

 

脳は栄養不足がわかっています。だからこそ、その情報を扁桃体が「不快(危険)」と評価し、それが知性脳(右脳左脳)にとどき続けるからこそ、私たちの感情は乱れることになります。

 

なぜなら、栄養不足による感情の乱れは、視覚で確認できないからです。ほとんどの生理前症候群は、栄養不足と睡眠不足が原因だと私は実務上の経験から確信しています。

 

もし、ホルモンからのアプローチでお悩みの方がいらっしゃいましたら、十分な栄養をお試しになってください。きっと、驚かれると思います。